Plasma内の衝突過程(弾性衝突と非弾性衝突)
Plasma内では、さまざまな衝突・反応が起きている。
「
非弾性衝突(inelastic collision)
」は、粒子の内部energy(電子の軌道や熱運動)が変化する複雑な衝突。非弾性衝突では、粒子の内部energyが変化して、励起、電離、解離などが起こる。
「
弾性衝突(elastic collision)
」は、内部energyが変化せず、衝突前後で運動energyと運動量が保存される。弾性衝突では、運動energyのみが交換される。
弾性衝突の方が非弾性衝突より、衝突の解析は容易になる。軽い電子と重い他の粒子との弾性衝突で電子が1回に交換する運動energyはわずかである。しかし、衝突の回数は極めて多く、電子のenergy分布に影響を与える。glow放電Plasma中の電子温度は、ion温度に比べて、かなり高くなっている。これは、電子とionでは、中性粒子と弾性衝突する時の運動energyの損失割合が異なるためである。
Plasma中では、ion , 電子 , 中性分子・原子間、又は、この粒子と固体壁の間で、
「
非弾性衝突
」が起きている。
衝突反応が利用されるPlasmaは、glow放電のように、電子温度とgas温度の間で平衡状態が成立しない。
これは、「
非平衡Plasma
」と呼ばれる。
荷電粒子である電子とionの発生は、主として電子衝突による「
直接電離
」又は「
累積電離
」による。 しかし、準安定原子同士の衝突による電離によっても起こる。
これらの荷電粒子の消滅は、主に「
放射再結合
」と「
解離再結合
」による。
励起(exitation)と緩和(relaxation)
通常、原子の電子軌道は、最もenergyが低く安定な基底状態になっている。
外部から電子や光が原子に衝突すると、電子はenergy状態の高い軌道に移動する。
これを「励起」という。
励起状態は、不安定で、短時間(約10-8秒)に光を放出して、基底状態に戻る。
これを「緩和」という。(軌道の移動のことを「遷移」という)
23S1準位や21S0準位のように、基底状態への光学的遷移が禁止されている場合は寿命が長くなる。
(10-2〜10-5秒程度)
このような励起原子の状態を「準安定状態」と呼んでいる。
glow放電中にPlasmaが発光するのは、電子が衝突して励起して、その後緩和して光を出すためである。
(Sheath中では、電子がほとんど無いので発光しない)
励起には、3種類ある。
・電子の運動energyを用いる「電子衝突励起」
・光子energyを用いる「光励起」
・熱energyを用いる「熱励起」
電離(ionization)
励起状態より、もっと大きなenergyを外部から加えると、電子が原子から飛び出す。
これが「電離」である。
電離に必要な最低電圧を「電離電圧」と呼ぶ。
2個以上の電子を持っている原子では、第1、第2、第3...電離電圧が存在する。
電極で加速された電子が分子や原子に衝突して、外郭の電子を剥ぎ取りion化する。
ここで発生した電子が、次の分子・原子に衝突して、電離がさらに進み、放電が維持される。
これを「電離増殖作用(α作用)」と呼ぶ。
反応例 F + e → F+ 2e
電子衝突で基底状態にある原子を電離するには、電離電圧以上の電子energyが必要である。
しかし、「準安定状態」の原子を電離するには、電離電圧と準安定準位の差の電子energyがあれば良い。
従って、複数の電子により2段階以上で励起を行えば、低energyの電子でも電離が起こりうる。
このような多段階の衝突過程での電離を「累積電離」という。
(反応例 Am + e → A+ + 2e)
準安定状態にある原子Aと、その準安定準位より低い電離電圧の原子Bが衝突する場合を考える。
A原子の内部energyをB原子に与えて、A原子は基底準位に戻り、B原子が電離する。
これを「ペニング電離」と呼んでいる。(反応例 Am + B → A + B+ + e)
ペニング電離は、蛍光灯の放電開始電圧を下げるために利用されている。
水銀の電離電圧が「10.4V」であるのに対し、アルゴンの準安定準位は「11.5〜11.7V」付近にある。
水銀蒸気にアルゴンガスをわずか(0.1〜1.0%)混合するだけで、放電電圧はかなり低下する。
Ar m + Hg → Ar + Hg+ + e
解離(dissociation)
安定な分子に電子が衝突して、中性のradicalを生み出す過程を「解離」という。
radicalは不安定で反応性が高い状態。
反応例 CF4 + e → CF3* + F* + e
再結合(recombination)
正負の荷電粒子が結合する過程を「再結合」と呼ぶ。
再結合は、起こる場所によって、「表面再結合」と「体積再結合」に分けられる。
「表面再結合」は、管壁のような絶縁物の表面において起こる。
低圧力の放電では、荷電粒子の損失の大きな要因となる。
「体積再結合」は、空間中に分布する粒子間の衝突の時に起こる。
気体の圧力が高く拡散しにくい場合に起こり易い。
一般に、表面再結合と体積再結合の起こり易さは、表面再結合の方がはるかに大きい。
放射再結合(rediative recombination)
ionと電子が結合する過程で、電離の逆である。
この時余ったenergyを光として放射するので、放射再結合と呼ばれる。
反応例 F+ + e → F + hν
解離再結合(dissociative recombination)
複数原子で構成されたionに電子が衝突して、電子が結合すると共に、原子同士の結合が解離する。
そして、radicalに分かれる過程。
反応例 (AB)+ + e → A* + B*
ion再結合(ion recombination)
陽ionと負ionが、coulomb力で結合し、電子を交換して、中性の原子になる過程。
反応例 A+ + B- → A + B
電子付着(electron attachment)
原子に電子が衝突して結合し、負ionができる過程を「電子付着」と呼ぶ。
Halogen元素は、最外殻を飽和させるのに1つ足りない原子である。
そのため、電子を1つ付着させ、最外殻電子を飽和して安定させ易い性質がある。
これを「電子親和力(electron affinity)」が大きいという。
電子付着が起こり易いものには、水蒸気、ハロゲン族、酸素、オゾンなどがある。
負ionが生成されると、電離作用に影響を及ぼす電子を捕獲するため、絶縁破壊を起き難くする。
反応例 Cl + e → Cl-
電荷交換(charge exchange)
原子とionが衝突して、電子が原子からionに移る。
そして、衝突前に原子だったものがionになり、ionだったものが原子になる過程を「電荷交換」と呼ぶ。
反応例 A+ + B → A + B+